第56戦 vsロッテ1回戦【2019.6.4】
ZOZOマリンスタジアム
阪神 210 010 025 11
ロテ 030 000 000 3
本 梅野5号 糸井4号 マルテ6号
○メッセンジャー3勝5敗 ●涌井3勝3敗
阪神 メッセンジャー、藤川、ジョンソン、島本
ロテ 涌井、チェン、東條、西野、レイビン、田中
前日の3日に原口昇格の報せを聞く。
ちょうど仕事の合間で用事は何もなく暇だ。しかも比較的近い幕張での試合。
これは観に行くしかない。
大病の公表に居ても立っても居られず購入した原口ユニフォームと原口タオルを持参して駆けつけた。
久々のZOZOマリン。阪神戦を観に来るのは6年ぶり。その時は9裏に追いつかれて、5時間ゲームになり、結局引き分けでドッと疲れたことを覚えている。
今日の目的は原口だが、大前提として勝ち試合を観たい。
球場の雰囲気は、何やらざわめいている。
それはフィールドに原口がいるからだ。27歳の若さで大腸がんを患ったのにもかかわらず、公表から5ヶ月で一軍の舞台に戻ってきた不屈の男がそこにいる。
その一挙手一投足に注目し、何か声をかけてあげたい。そういう空気が流れていた。
打撃練習では柵越えが1本。レフト席に放り込み、大きな拍手が起きた。
しっかりと一軍の戦力になるから上がってきた。そう思わせる打球だった。
キャッチボールで3塁側に選手たちが現れると、ファンは「原口ー!」「おかえりー!」と大きな声援を送る。そして、それに丁寧なお辞儀で応える原口。
この律義さに彼の人柄の良さが出て、胸を熱くさせる。
守備練習では一塁に就いていた。
マルテも調子は上がってきているが、原口を4打席観たいという思いも湧いてくる。
ただ、本人は捕手での出場が目標。
梅野もマルテも中谷も、より一層気を引き締めるだろう。
単なる復活ではなく、チームに更なる競争意識を芽生えさせる刺激的な昇格。その波及効果は大きい。
放送席にタイガースOBを見つける。
彼らもまた、後輩の復活を大いに喜んでいることだろう。
そして、試合開始。
初回から涌井を攻め立て一気に2点を先制。
涌井は先頭で出た近本を警戒し、それが投球のリズムに影響したのか糸原にフォアボールを与えた。そのランナーを糸井、大山で返す理想的な得点の取り方だった。
2表には相手のミスで更なる追加点。
初回のメッセの立ち上がりも良く
「これは楽な試合になるかなー」
と思っていたが、そのメッセ。2裏に乱れる。
先頭の4番井上にストレートのフォアボール、5番レアードにレフト前ヒットで無死1、2塁。6番中村はライトフライに打ち取りワンアウト。7番以降は打率の低い打者が続くので切り抜けられると思っていたのに、菅野にフォアボールで一死満塁。8番三木にあわや逆転満塁弾というレフトへの犠牲フライで1点を失う。9番吉田で何とか、と思ったがここでもフォアボール。再び満塁のピンチ。
1番荻野は今季好調の巧打者。フルカウントから内角低めのストレートをうまくレフト前に運ばれ2点タイムリー。同点。
メッセ、どうした。。
続く鈴木大地にもフルカウントにし、どうなる事かと思ったが、ここはズバッと外角ストレートの見逃し三振でどうにかタイスコアでしのいだ。
やはり、交流戦は一筋縄では行かないか、という思いが浮かぶのと同時に接戦の方が原口の出番が来やすいかもなどと考えてしまう複雑な心境。
4裏。
一死1、3塁のピンチ。バッターは9番吉田。ここでロッテはスクイズを仕掛ける。
も、ピッチャー前に転がった打球をメッセがサードランナー中村にタッチする好フィールディングで処理。しのぐ。ここで勝ち越されていたら相手に流れが行ってしまう重要な場面だった。
そして、5表。
梅野が涌井のストレートをライトホームランラグーンへ叩き込む。相手が是が非でも取りたかった次の得点をホームランでこちらが取る。流れをタイガースに持ってくる値千金の一発だった。
この女房役の活躍に気を良くしたメッセは5、6裏を1安打で抑え御役御免。
毎試合、どこかでグラつくイニングこそあるが、試合は作れている。投げれば投げるほど自分のペースを取り戻していけるのがメッセンジャーの長所。今後の試合で徐々に良くなって、一番苦しい9月にピークを持っていく作戦を採っているのだろう。
7裏は球児。
鈴木大地にヒットこそ許したが、あとの打者はバッチリ抑えた。毎度ヒヤヒヤピッチングを覚悟しているが、ここ最近は安定感が増しつつある。実に頼もしい。
そして8表。
ここで、あることに気づく。
7表が8番中谷で終わったので、このまま8、9回を三者凡退で抑えられたら(8回9~2番、9回3~5番)、原口の出番が無いのではないかという大いなる懸念。
今日は原口を観に来ている。なのに、出場しなかったということになれば、明日も来なくてはいけない。いや、別に構わないのだが、チケット代や交通費を考えると明日も1万円弱出ていくことになる。出来ることならその出費は避けたい。
8回は打順の頭に回るので代打は出しにくい。そう考えていくと代打チャンスは9回に回ってくる可能性の高い8番中谷のところになる。何せ今日の中谷は全く振れていない。
そこまで回すにはとにかく誰でも良いから塁に出ることだ。あと2イニングで3人のランナーを出し、併殺がなければ8番まで行ける。
さあ、打てタイガースナイン。原口を観に来ているファンのために。
するとその祈りはキャプテンと超人に通じた!
二死から糸原がセンター前ヒットを放ち、続く糸井は打った瞬間それとわかる特大アーチ。生で観る「打った瞬間アーチ」はなんとキレイな放物線を描くのだろう。
2点の追加点も嬉しいが、打順が進んだことが一番嬉しい。
次の大山はライトフライに倒れてチェンジとなったが、これで9回は一人ランナーが出れば8番に回る!
8裏は我らがPJことピアース・ジョンソン。
全く危なげなく三者凡退で抑える。
さりげなくお膳立てを整える仕事人。カッコよすぎる。
さあ9表。
誰でも良いから塁に出ろ!
そしたら5番のマルテ。
この回から登板のレイビンから完璧なホームランを打つじゃありませんか!
マルちゃん! 大好き!
これぞ助っ人の仕事。
もう誰も塁に出なくても8番まで回る。あとはベンチの采配を信じるのみ。
6番梅野。フォアボール。これでチャンスで回せる可能性が出てきた!
7番高山が打席に入る。ということは、ネクストバッターズサークルに誰が出てくるかでもうその“瞬間”が来るのが分かる。
双眼鏡でダグアウトを見る。
笑顔の中谷がバットを持って出てこようとしている...いや、違う! お前じゃない! するとコーチ(誰だったか思い出せない。たぶん平野コーチ)が中谷に下がりなさいと声を掛ける。
そして、中谷と入れ替わる形で原口がダグアウトから出てきた!
もうダメ。ここで涙腺が崩壊。
せっかく持ってきて掲げるつもりだった原口タオルは涙をぬぐうのに精一杯。
3塁側スタンドは大声援。
そのさなかで高山。6球目で三振に倒れる。も、梅野が二盗、三盗とダイヤモンドを駆け回り、同い年の帰ってきた男のために最高の舞台を用意する。
ネクストから打席に歩く原口。
そこに代打を告げるアナウンス。
割れんばかりの大歓声とスタンディングオベーション。
スタンドの左右に一礼し、原口は打席に立った。
その初球。
フルスイングでファール。
昨季、幾度となくチャンスをものにしてきたファーストストライクから振っていく積極果敢な姿勢は何も変わっていない。
そして、4球目。
甘く入ったボールをレフト方向にはじき返す。
レフト菅野が追う。その菅野に「捕るなー!」と叫ぶ。
あとから観れば捕れる打球ではなかったが、そう叫ばずにはいられなかった。
フェンス直撃のタイムリーツーベース。しかも渾身のヘッドスライディングで2塁に突っ込んだ。
この目の前で起きたドラマティックな場面に、泣きじゃくる。
いい大人がワンワン泣いた。
観に来て良かった。
これ以上ない復帰戦になった。
おめでとう原口。
ありがとう原口。
そして、中谷には悪いが、お礼を言いたい。
ロッテ投手陣をまるで打てる気配がしなかったからこそ、代打を出すことができた。
嫌みに聞こえるかもしれないが、そうではない。一か八か打法の調子がたまたま崩れているときのタイミングだっただけだ。
この画像の中谷の笑顔。自分が不甲斐なかったから代打を出されたのに、仲間の復帰を心から喜んで声援を送っている。この明るさが彼の魅力でもある。
ライバルの登場に奮起して、またその打棒を磨いてほしい。
そして、レイビンにもお礼を言いたい。
どこに投げてもポカスカ打たれてくれたからこそ、この感動的な復帰戦を観ることができた。
これは嫌みだ。でも他球団の選手だから遠慮しない。
この日のピッチングを見る限り、来年もいるとは思えないが、一生忘れらないピッチャーになった。
さて、このレイビンの乱調もあって9表に5点を取ったタイガース。
9裏に島本を投入。
素晴らしいピッチングで試合を締めた。
そして、ヒーローインタビュー。
試合の流れから言えば梅野だが、スタンドからは自発的に「原口! 原口!」のコールが湧きおこる。
3分ほど待った後に、梅野と原口が出てきた。
ビジターチームのヒーローインタビューに二人出てくるのは見たことがない。
恐らくはロッテ球団の粋な計らいだろう。
鈴木大地が記念球をベンチに転がしてくれたり、ロッテ球団の心の在り方に感銘を受ける。
人間とはかくありたい。
とにもかくにも、原口は元気に帰ってきた。
これで優勝へのパズルに残されたピースは1つになった。
藤浪晋太郎!
待ってるぞ!